「優しい吸血鬼」


少なくとも、サムは代償や気軽さなどを求めてはいなかった。これほどまでに、ディーンを束縛しようとした男はいなかったし、拒んでもなお執着してきた男はいなかった。こんなにも強引で、それでいて愛情に溢れた目で見つめてきた男もいなかった。ずっと、こういう関係を続けたいと言われたことはあっても、それに応えたいと思ったのは、サムだけだった。・・・サムだけ。サムだけが、ディーンが真実求めていたものに気付き、また、持ち備えていた。
そのサムが、再びの侵入を始める。
ディーンは喘ぎながら、それでも少しでも楽になるようにと力を抜いた。
ゆっくりと埋め込まれていくのに合わせて、自分でもまじまじと見たことがない箇所が引き攣りながらも大きく広がっていく様を、目も反らせず見つめた。
さきほどサムが放ったものが残っていたせいで(おかげ、だとは決して思いたくない)、痛みはなく、すんなりと受け入れていく。ぽたりとサムの頬を伝って雫が落ちてくる。それが、汗なのか、それともシャワーの湯なのか判別できない。ただ、眉根を寄せた顔に無性に触れたくなった。
バランスの悪い自分の身体を支えるようにサムの首へ腕を回し、右手でその頬に触れた。
「ディーン」
「・・・シャワー、止めろ・・・。熱い、・・・ッ」
サムは言われた通り、シャワーを止めた。
いまはむしろ水を浴びたいくらいだった。
指先に少し、ざらりとした感触がする。
「伸びてきてる・・・」
「僕もディーンみたいに伸ばそうかな」
サムはあまり髭が濃くない。綺麗に不精髭を生やすとなると難しいだろう。なにより、似合わない。
「やめとけ・・・、似合わな・い・・・ッ」
「また子供扱いして」
その間も押し進められていたサムのものが、ディーンの最奥を突いた。その衝撃にディーンの爪先が跳ねた。
「し、てない・・・ッ、」
第一、子供じゃないことは身を持って感じていた。そんなことではなかった。ディーンが言いたかったのは。
「・・・そのま、ま・・・お前は、そのままで・・いてくれ・・・」
「ディーン」
髭がなかなか生え揃わないところも、子供扱いされて怒るところも、まだ明らかになっていない能力を持っているところも、こんな兄を想っている救いようのないバカなところも、そのすべてが可愛かった。それは、もう、誤魔化しようもないほどに。できることなら、そのままでいてほしい。数ヵ月後には、それを見届けてやっていけない自分のためにも。
お前はお前らしく。
俺がいなくなっても、悲嘆することなく。そんなお前を、頼もしく思いながら落ちていく地獄なら、それほど悪くはないはずだ。そう、ディーンは心から思えた。
「そ、のままの、お前が・・・ッ、いいん・だ・・・」
「ディーン・・・」
その言葉のどこに興奮したのか、内部に埋め込まれたサム自身が一層容量を増す。圧迫感が増して、ディーンは息苦しさを訴えた。苦しい、となんとか口にすると、サムは壁を支えにしていたディーンの背中を抱き寄せ、床へ寝かせた。
「な・んだよっ、お前!・・・せめて、ベッドへ連れてけ・・・!」
「ごめん、でも、もうもたない」
まともな会話をしたのはそれが最後だった。
inserted by FC2 system